エンタテインメントマーケティングが提供するのは「アーティスト・サービス」です。エンタテインメントマーケティングのサービスには14のメニューがあり、アーティストやマネジメント・ファームはこの中から好きなメニューを選択してエンタテインメントマーケティングに依頼できます。1から14までの全てのメニューを依頼すると、アーティスト・マネジメントの全てになります。
実は、このようなサービスは私たちエンタテインメントマーケティング独自のものではありません。いまや、ヨーロッパで数多く立ち上がっているビジネスです。
レーベルの存在意義の変化
時代がストリーミングにシフトして、誰もが簡単に音源をストリーミング・プラットフォームで公開できるようになった今、レーベルが必要なのかという問題が出てきました。TuneCoreのようなサービスを利用すれば、わずかな手数料だけでSpotifyでもApple Musicでも曲を聞いてもらえるようになります。この場合、アーティストの取り分は下図の「レーベル」の部分、全体の55%になります。Spotifyなどのストリーミング・プラットフォーム[1]が自身の手数料30%を引き、音楽著作権使用料15%をASCAPやBMI、JASRAC、NexToneといった音楽著作権徴収団体に支払い、レーベルに55%支払うというのが標準的な方法です。レーベルに対する比率はレーベルと各ストリーミング・プラットフォームとの契約によって変化しますが、標準的な比率と劇的に変わるわけではありません。
[1] 英語ではDSP : Distribution Service Platformというのが普通になっています。
レーベルは受け取った55%の中から音源制作費やマーケティング費用をまかない、アーティストには55%の30%、つまりストリーミング売上全体から見れば16.5%をアーティストに支払います。ちなみに日本のレーベルと契約してしまうと「55%の30%」じゃなく「55%の1%とか2%」しか受け取れません。
下図は、音楽領域の専門会計士であるCollin Young氏がイギリス議会の公聴会に提出した資料です。
自分でTuneCoreから配信すれば55%の100%をまるごと受け取れるのに、レーベルと契約すると16.5%しか受け取れないのか? これが多くのアーティスト、とくにこれから活動しようとするアーティストの疑問になりました。
「大昔なら大きなスタジオにオーケストラを呼んで録音しないと音源は完成せず、レコーディングにも大きな費用かかったからレーベルの投資は必要だったかもしれないけど、今はそんな時代ではない。また、レーベルと契約すればバンバンとプロモーションしてくれて何十倍も売上が増大するというならそれでも良いけど、そんなわけないだろう」という気持ちになるアーティストが増えたのですね。
こういう気持ちを最大化させたのがChance The Rapperの2017年のグラミー賞の「The Best New Artist」を含む3部門の受賞でした。この段階で彼は「商業アルバム」を出していませんでした。無料で配信している「ミックステープ」を3枚リリースしてきた彼は、商業作品ではないミックステープで史上初のグラミー賞を受賞してしまったのですね。「Chance The Rapperができるんだから自分もチャレンジしてみよう」と考えるアーティストが増えました。
さらに「レーベルのプロモーション・プランは時代遅れではないのか?」といった疑念がアーティストたちに持たれていたことも背景にあります。
レーベル取り分全部が自分のもとに来ると言っても、レーベルと契約すれば彼らが負担してきた音源の制作費やマーケティングの費用を自分たちで捻出する必要があります。また、アーティスト写真や媒体資料、ミュージック・ビデオなどの制作、マーケティングに関する全ての作業を自分たちで行なう必要があります。これはとてもではないがアーティスト本人とマネージメント・ファームだけでできる作業量ではありません。「面倒なストリーミングの配信作業だけは外注しよう」「お金の管理は苦手。これは誰か信頼できる人に任せたい」と、自分たちでは手が回らない部分を受けるサービス受託者として「アーティスト・サービス」の業者が出てきました。我々エンタテインメントマーケティングも、この中の一つで、主にアジアのアーティストからの依頼を受けています。
こうした流れを反映してか、メジャー・レーベル以外のアーティストの売上が徐々に伸びています。全米有数の求人サイト「Zippia」の集計によると、メジャー・レーベル以外の売上は業界1位のユニバーサル・ミュージックに迫る31.4%を記録しています。
ただ、ここで忘れてはいけないのは、Spotifyなどのプラットフォームにアップロードする曲の数は1日に10万曲にも上り、この大半はインディー・レーベルかTuneCoreなどから自分でアップロードするDIYアーティストです。つまり、インディー・レーベルと比べて「売る力」を持っているのがメジャー・レーベルということになります。
メジャー・レーベルの強みは、そのリソースの厚みにあります。世界津々浦々のラジオや音楽メディアと日常的なお付き合いを展開していて、いざというときにパワーを発揮できるのはメジャー・レーベルの強みです。
BTSはメジャー・レーベル所属ではなくて、Big Hit Entertainment (契約した2018年時)の自社レーベル「BTS」でThe Orchardというディストリビューターを起用して全世界配信をしていました。また、アメリカに関してはマーケティングとプロモーションをソニー・ミュージック・グループのコロンビアと契約していました。日本だけは特例で日本のユニバーサル・ミュージックと契約していたのですが、2021年になってこれを見直し、2022年には全世界でユニバーサル・ミュージックと契約しました。
IFPI(International Federation of the Phonographic Industry : 国際レコード産業連盟)の「The Global Music Report 2021」では世界のアーティストTopアーティスト1位に選ばれているのですが、シングル「Life Goes On」はBillboard Hot 100の1位になったけれども1位は長続きしませんでした。これは韓国語で歌われたこの曲がアメリカのヒット・チャートで重きを占めるラジオでのエアプレイが十分でなかったせいだと言われています。メジャー・レーべルと契約すると、たしかに自分の取り分が減ったような気がするかもしれませんが、メジャー・レーベルのレガシー・メディアにおける力は全く侮れません。
エンタテインメントマーケティングでは、メジャー・レーベルとアーティストの契約条件の折り合いがうまく付くのであれば、マーケティングのリソースを活用するのも良いと思っています。
ONE OK ROCKがグローバル・マーケットで活躍できるのは、ワーナー・ミュージック・グループのFueled by Ramenと契約したからだと思います。彼らは、メジャー・レーベルの力を有効に使っているように見えるのです。
世界のレコード産業の業績は絶好調です。2014年を底に、どんどん業績を上げています。
どん底の2014年を受けた2015年2月のグラミー賞の授賞式の最後にレコーディング・アカデミーの代表だったニール・ポートナウが「今のままだと何年後かに『音楽なんて全然お金にならないや』と、新人賞のノミネートがゼロ、なんていうことになるかもしれない」という、印象的なスピーチを行ったのが嘘のようです。そのくらい当時の音楽産業は追い詰められていたのです。それが翌年からは毎年業績を伸ばし続け、2020年はCDが全盛だった2001年程度まで業績を回復しました。いまどき毎年7%とか8%ずつ業績を伸ばしている業界なんて、ほかにほとんどありません。
この、伸びゆく音楽産業でアーティストがのびのびと創作をしていくのを我々エンタテインメントマーケティングはお手伝いしていきたいと思っています。
「セールス」から「ファン・エンゲージメント」へ
ストリーミング以前と以後と一番大きく変わったのは課金の対象です。ストリーミング以前、レコードやCDという「モノ」を販売していたときには購入者数が課金対象でした。ストリーミングでは課金対象が再生回数へと変わりました。アーティストにとっては、いかにファンの人数を増やすかではなく、いかに何回も音源を聞いてもらえるか、が成功のポイントに変わってきました。いかに熱心なファンで何回も自分たちの音源を聞いてもらえるか、を追求する時代になったのです。
ソーシャルメディアの世界には「エンゲージメント」という指標があります。自分の投稿やアカウントに「いいね!」をしてくれたり、紹介したリンク先に実際に訪問してくれたり、シェアしてくれたりしたことを合算して「エンゲージメント」というのです。この指標が高い投稿やアカウントが「エンゲージメントが高い」という評価をされるのです。
音楽アーティストの場合はこれから更に進みます。TwitterやFacebookに「いいね!」をいくつもらっても1円にもならないからです。実際にストリーミング・サービスやYouTubeに行って曲を聞いてもらえるかどうかがアーティストへの評価になります。これを「ファン・エンゲージメント」といいます。
これを最大化させるのが、アーティスト・サービスの最大の目的です。
世界的メジャー・アーティストの収益構造
Billboardでは、毎年1回、前年のトップ・アーティストの収益をレポートしています。2022年12月に発表された2021年版ではグローバルの収益トップ・アーティストは、下図のようでした。
※なお、ここに掲載したアーティストごとの売上はあくまで「売上」であり、利益ではありません。コンサートや音源の制作費なども含まれています。したがって、この金額がアーティスト本人に入金しているのではありません。
1位のTaylor Swiftと5位のDrakeは2021年にはコンサートを行っていないのでコンサート売上はゼロです。2位のThe Rolling Stones、3位のBTSはこのグラフのは灰色の「コンサート収入」が大きな部分を占めていることに気づくと思います。Taylor Swiftの録音物からの収入が多いのは、ユニバーサル・ミュージックとの契約において彼女自身が原盤権の半分を持っているからです。このような有利な契約を結べるのは、現状では彼女くらいです。
収益トップ・アーティストになるには、アーティストのブランド価値を十分に上げ、世界中でコンサートが開催できることが重要になってきました。ここには掲載されていませんが、コンサートで売られるアーティスト・グッズの売上もアーティストを大きく支えています。
これにともない、もう一つ重要なのがアーティストの体調管理です。多くのアーティストがツアー中に体調のトラブルを起こしています。ノドのコンディションが悪そうな状態でライブをやっているアーティストは数多いし、体調不良によるコンサートのキャンセルは枚挙にいとまがありません。エンタテインメントマーケティングでは、アーティストの体調に配慮したスケジューリングを心がけています。
マネジメントの存在意義の拡大
このように、現代のアーティストは、さまざまな変化により収益率は向上したのですが、その分アーティストがやるべきことが増えてきています。
かつて、CDの販売がアーティストのメインの収入源であったときは、アーティストはレーベルに依存して、レーベルと事前に取り決めた活動を行っていれば良かったのですが、これからはマネジメントが担うことになり、存在意義が大幅に拡大しています。次々に出てくるさまざまな方法に柔軟な方針変更ができるかどうか、それに合わせた資金調達ができるかどうか、がマネジメントの今後の意義になっていきます。
エンタテインメントマーケティングでは、このタスクが盛大に盛りだくさんになったマネジメント業務のうち、リソースの足りない部分をサポートします。
エンタテインメントマーケティングの取り組み
エンタテインメントマーケティングでは特にアーティストの初期には資金集めに重点を置いています。レーベルが契約金を出したり、育成費を出してくれる時代ではいまやありません。アーティストとマネジメントは自ら育成のための費用を捻出しなければなりません。アーティストの資金需要はどんなにアーティストがビッグになってもなくなることはありませんが、特に初期においては重要です。これがエンタテインメントマーケティングの特長の一つになるかもしれません。
また、マーチャンダイジングをこのアーティストの資金集めの一環として考えているのも特長と言えるかもしれません。
とはいえ、エンタテインメントマーケティングが考えるアーティスト施策はファン・エンゲージメントの獲得と維持が中心です。「いかにしてアーティストのファン・エンゲージメントをつくっていくか」。これがここしばらくのエンタテインメントマーケティングの活動の中心となるでしょう。
エンタテインメントマーケティングのアーティスト・サービス・メニュー
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