ストリーミング配信チャネルの決定と入稿
さて、いよいよストリーミング・プラットフォームでの曲の公開の準備です。
ストリーミングが中心な世界配信において、通常は配信ディストリビューターを選んで、ここに依頼して入稿します。レーベルと契約していればこれはレーベルがやってくれますが、TuneCoreなどを利用して入稿するときには、自分たちでさまざまな準備が必要です。
TuneCore Japanから配信できるのはSpotify、Apple Music、Amazon Music Unlimited、Google Play Musicなどの世界的プラットフォームの他、ヨーロッパに強いDeezer、中国のTencentやNetEase、東アジアに強いKKBOX、日本のAWA、LINE MUSICなど多岐にわたっています。
数多くのプラットフォームに配信するのはいいけれど、配信する以上はプラットフォームに合わせた対策をきちんとやる必要があるので、人的リソースが少ないうちは欲張らずにメインどころからきっちりやっていきましょう。
下図は各プラットフォームでの再生単価を示した図です。
また、日本マーケットに関しては、西脇励/Rei Nishiwakiさんというアーティストが、自身の音源をもとに、定期的に再生単価をレポートしています。
音源の納品の際には数々のデータを手元に持っている必要があります。録音物に付けられる国際標準レコーディングコード、音楽著作物に付けられる作品コード、著作者や音楽出版社に付けられるIPIナンバーなどです。これが不十分だったり、間違っていたりすると正常な分配が受けられない可能性があるので、注意が必要です。番号を持っていない場合、申請に時間がかかることもあるので、十分に余裕を持って申請しないとファンと約束した日にプラットフォームで公開できない可能性もあります。
音源が公開されたら、音源からの収益のためにはストリーミング・プラットフォームのアルゴリズムに乗っていく必要があります。「Spotify for Artist」のようなアーティストやマネージャーが見られる管理画面があって、リアルタイムでどの曲が何回再生されているのか、どのマーケットで再生されているのかなどのことをウォッチできるようになているので、これをまめにチェックして再生状況を知り、もし再生回数が期待したほどではなかったのならば、対策を即座に取る必要があります。
ほとんどの人はSpotifyで毎回毎回曲名やアーティスト名で検索して聞きたい曲を探し出して聞くのではありません。SNSでリリースを知ったアーティストのファンは検索するかもしれませんが、大抵は好みのプレイリストを探し出して、ここにリストされている曲を聞いています。また、SpotifyのトップページにはSpotify自身が作成したプレイリストも並んでいます。プレイリストには人間が聞いて選ぶエディトリアル・プレイリストとアルゴリズムで自動生成されるプレイリストがあります。
曲を多くの人に聞いてもらうためには、有名エディトリアル・プレイリストに入ることが望ましいのですが、有名プレイリストに入るためには前に別のプレイリストに入って、そこで成績が良いことが必要なんです。
プレイリストには新譜プレイリストやジャンルごとのプレイリストがあり、この編集者が曲を認識していなければそもそもこのプレイリストにも入りません。そのため、アーティストは「Spotify for Artist」に用意されているプレイリスト編集者向けに自分の曲をプレゼンする「ピッチ」を行ないます。
「ピッチ」してもなかなかプレイリストには掲載してもらえません。アメリカやヨーロッパにはアーティスト・ダイレクトのアーティストが山程います。数多くのアーティストが自信たっぷりに自身の曲をグイグイとプレゼンしてきます。でも、プレイリストに載せてもらえる枠の数は限られているのです。私たちも、日本人っぽい謙遜なんかひとかけらもなく、グイグイとプレゼンしていかないと負けてしまいます。
新人アーティストが1曲めでいきなり有名エディトリアル・プレイリストに入ることはありません。新譜プレイリストやジャンルごとのプレイリストのなるべく冒頭の方に入って、途中で飛ばされることなく最後まで聞いてもらった曲が「成績がいい」曲です。
YouTube収益化ダッシュボードでは、視聴者が何秒から離脱しているのかわかります。これと同じことが「Spotify」などの各サービスではわかっているのではないかと思われます。
ですから、イントロが長くてなかなか曲の本体が始まらずにスキップされてしまう曲はなかなか成績が上がりません。長ったらしい曲もスキップされてしまいます。「もうすぐ終わります」と自ら言っているようなフェードアウトもスキップされる要因です。ですから、最近のBillboard Hot 100の上位に入っている曲は、イントロが15秒以内くらいで曲の長さは3分程度、終わり方もカットアウトで唐突に終わります。もちろん人気のアーティストであれば、イントロが長かろうが、フェードアウトしていようが最後まで聞いてもらえるわけですが、新人はなかなかそうはいかないので、曲のサイズはどうしても似てしまいます。
また、バイラルチャートのランキングもプレイリストに入れるかどうかに影響を持ちます。ファンのシェアなどのエンゲージメントが必要です。このためには、
1. Spotify for Artistからピッチして、エディトリアル・プレイリストに乗せてもらう
2.コアなファンを使って、何回も聞いてもらい、シェアもしてもらって、バイラル・チャートを上げる
ことが必要です。
3.検索されやすいタイトルで、自分でプレイリストを作って人気を出し、ここに自分の曲を入れる
などということをやっているアーティストもいるようです(笑)
Spotify Japanのコンテンツ統括責任者の芦澤紀子さんが「CINRA」に語ったところによると、すべてシステムがデータ解析に基づいて算出しているというバイラルチャートで参照されるのは、
- Spotifyサービス内で直近の再生回数がどれだけ上昇したか
- TwitterやInstagramなどのSNSにSpotifyのURL(リンク)がどれだけシェアされたか
- どれだけその曲が新しく発見されたか
という3つの要素だということです。これはいずれもSpotify内の出来事で、YouTubeやTikTokなど、外部のサービスにおける再生回数や、そこからリンクを辿った流入が直接的にカウントされているわけではない、ということのようです。ところが、ストリーミング・プラットフォームでは、より多くの人に好まれる可能性がある曲は、再生回数ではないところでアルゴリズム判断されているようなのです。ここでは、どうやらメジャー・レーべルの存在が大きそうなんです。メジャー・レーベルがストリーミング・プラットフォームにプッシュしている曲は、再生回数が伸びなくてもアルゴリズム・プレイリストに入っていることがよくあるのです。
フィジカルを作成する場合の各種手配
「フィジカル」とは、CDやレコードなどの「モノ」のことです。ライブを行なう場合は必ずCDは作成しましょう。フィジカルはマーチャンダイジングの一つと考えるべきです。単価も高いCDは売上に貢献しますし、CDがライブ会場でしか買えない場合は、ファンの購入のモチベーションも上がります。
最近は小ロットでの製造も可能です。
また、ヨーロッパのショーケース・イベントなどには、LPサイズのレコードを持ってきて展示するアーティストが多いです。12cm角のCDと比べ、30cm角のLPはグラフィックが目立って押し出しが強いからではないかと思います。
LPが売れるのはあまり期待できませんが、展示用にジャケットだけでも作成する、というのも「あり」かもしれません。
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