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レーベルと契約する意味って何だろう?

メジャー・レーベル3社

イギリスの競争・市場庁(Competition and Markets Authority (CMA))がソニー・ミュージックのAWALの買収に関して調査を行っています。

MBW’S WEEKLY ROUND-UP
Music Business Worldwide 「Weekly Roundup」のロゴ
https://www.musicbusinessworldwide.com/from-drake-and-kanyes-blockbuster-albums-to-apple-musics-new-dj-mix-technology-its-mbws-weekly-round-up/

CMAは、日本の公正取引委員会に当たる組織で、企業の独占や寡占に目を光らせています。CMAは、この買収の結果「アーティストの条件が悪化し、音楽セクターのイノベーションが低下する可能性がある」と判断し、調査を開始しているのです。

ソニー・ミュージックは皆さんご存知のとおり、メジャー・レーべルです。一方のAWALは「Artists Without A Label」の略で「レーベルなしのアーティスト」という意味ですね。ソニー・ミュージックの「レーベル」としてのビジネスとはまったく逆のビジネスですね。

現代におけるレーベルの役割とは一体何でしょうか?
世界中に国ごとにCDやレコードを届けて音楽を売っていた時代なら「工業」「流通業」としての意味もありましたが、いまやストリーミングの時代です。SpotifyやApple Musicで一瞬のうちに世界中に音楽を届けて売ることができるようになった今、レーベルの主な役割は「プロモーション」になりました。日本発の音楽でも特定のマーケットで突然火が点くことがあります。いまやそれはアジアだけでなく、北ヨーロッパだったり、南アメリカだったりします。こういった、アーティストやマネジメントが足がかりを持たないマーケットでのプロモーションは、とてもアーティストやマネジメント自身が行うことはできません。
中国ではアメリカのインターネット・サービスは基本的に禁止されていますから、中国のユーザーに音楽を聞いてもらうためには中国のDSPに曲を登録しないといけません。当然中国語を使うわけですから、これもアーティストやマネジメント自身が行うのはむずかしいことです。

こういった、諸々をやってくれるのがメジャー・レーベルなわけですが、いかんせん手数料が高いのです。イギリスではDSPがレーベルに支払った金額のうち45%をレーベルが手数料として徴収するのだ、と言われています。

イギリス議会「音楽ストリーミングの経済」委員会に会計士Collin Young氏が提出した資料

(イギリス議会「音楽ストリーミングの経済」委員会に会計士Collin Young氏が提出した資料)
https://committees.parliament.uk/work/646/economics-of-music-streaming/publications/3/correspondence/

日本のレーベルの場合は、さらにもっとレコード会社の取り分が多いのです。
一方で、TuneCoreのようなアーティスト・ダイレクトのサービスを利用すれば手数料ゼロで、DSPの分配額の100%がアーティスト・サイドに入るのですから、この差は巨大なものがあります。

レーベルが提供するサービスを、もっと安価に提供するのが「レーベル・サービス」と言われている会社たちで、この中の一つに今回話題のAWALがあります。このサービスを利用することによって「Artists Without A Label」「レーベルなしのアーティスト」なのに、十分なプロモーション体制を構築する事ができるというものです。レーベル・サービスの手数料率はメジャー・レーベルよりはずっと低く、アーティストやマネジメントにとっては使いやすいものになっています。

このアーティスト・サービスの大手をメジャー・レーベルが傘下におさめることによって「アーティストの条件が悪化し、音楽セクターのイノベーションが低下する可能性がある」と判断し、調査を開始しているのですね。

イギリスでは、議会がメジャー・レーベルのビジネスを問題視しており、現状の45%の手数料も見直して、もっとアーティストに分配するようにするという動きが見られます。イギリスは、人口も日本の半分以下しかおらず、音楽マーケットとしては小さいのですが、世界の音楽動向の最先端でもあり、この国のビジネスの制約が他国にも影響を与えられることが考えられます。グローバル・マーケットを相手にするアーティストは、動きを注意しておいたほうが良さそうです。