空間オーディオの可能性とレコーディング技術の変化

アップルが2021年5月にアナウンスしていた「Apple Music、ドルビーアトモスによる空間オーディオを発表、さらにカタログ全体がロスレスオーディオに」が2021年6月7日から実施されました。

Apple Music、ドルビーアトモスによる空間オーディオを発表、さらにカタログ全体がロスレスオーディオに - 2021年6月、Apple Musicのサブスクリプションの登録者は新次元のサウンドを追加費用なしで利用可能に 【アップル】
アップルのニュース・リリース

いつも遅れがちになる日本語環境への導入も、完了しています。
Apple Musicのテイラー・スウィフトの楽曲

アップル・ミュージックでは、Appleの「Music Radio」のDJ、Zane Loweが司会し、世界有数のプロデューサー、エンジニア、マスタリング・エンジニアが語っています。これは大変おもしろい。一流の録音業界の人々がこのテクノロジーに注目しているのです。

日本語で「空間オーディオ」と言うより、英語の「Spacial Audio」の方が体験してみた感じをよく表現できているかもしれません。「Spacial Audio」は、僕らがこれまで慣れ親しんできた「ステレオ」の概念を覆す、新たな方式です。全く新しい音楽体験です。世界は、この方向に進んでいくようです。

これまでも立体音像を志向する方式はたくさんありましが、今年の流れは、これまでと全く違いそうです。現在、主要な音楽向けSpecial Audioの規格は主に2つで、Dolby Laboratoriesの「Dolby Atmos Music」と、ソニーの「360 Reality Audio」です。アップルがサポートするのはこのうちの「Dolby Atmos Music」です。amazon musicでは、「360 Reality Audio」対応をしています。
amazon musicのページ

この他にも「Auro-3D」や「DTS:X」という規格もあります。
Apple Musicでこれを体験するには「Apple MusicはH1チップまたはW1チップを搭載したすべてのAirPodsとBeatsのヘッドフォン、および最新バージョンのiPhone、iPad、Macの内蔵スピーカーで、Dolby Atmos Music対応の曲を自動的に再生します」とのことで、
W1搭載のAirPods、Beats Solo3 Wireless、Beats Studio3 Wireless、BeatsX、Powerbeats3 Wirelessまたは
H1搭載のAirPods 第2世代とAirPods Pro、AirPods Max、Powerbeats Pro、Beats Solo Pro、Powerbeats 第4世代を持っていればすぐに体験ができます。

Spacial Audioがどうすごいかと言うと、音が、その位置で鳴っているように聞こえることです。あなたがもしステージの真ん中にいたら、自分の前でヴォーカリストが歌い、左からはギター、右からはベース、後ろからはドラムの音が聞こえてくるのです。
これまでの「ステレオ」は面として音場をとらえていました。「Spacial Audio」は立体として音場をとらえるのです。
これはVR(ヴァーチャル・リアリティ:Virtual  Reality)と密接な関係を持っています。Ocurus Questのような3Dゴーグルをかぶって立体映像を体験するのは、ゲーマーなどを中心にすでに行われていることですが、これからの体験は、ゲームに限らずどんどんVR化すると言われています。
たとえば、そう簡単にはたどり着けない観光地にVRで訪問することができるようになると言われています。
マチュピチュ
マチュピチュ。日本からは遥か遠いペルーの有名な観光地です。ここにVRで訪れる。右を向くと風景が右にパンし、下を見れば眼下にマチュピチュの風景が広がります。後ろで鳥が鳴いたような気がして振り返るとそこには日本では見たことのないような鳥が羽ばたいているのです。
こういうことを音声で実現するためには、音声も3D化しなければならないのです。
当然音楽体験も向上し、昔から多くの人が目指してきた「まるでそこで弾いているかのような音」に近づくことになります。

VRは将来的には視覚と聴覚だけでなく、他の五感にも働きかける事ができるようになると言われています。マチュピチュの風を感じたり、そこのにおいを感じたりすることもできるようになると言われているのです。

音楽制作も大きく変わっていきます。
ソニーの「360 Reality Audio」を利用した制作をすでに手掛けている佐藤純之介さんは、YouTubeの「SoundRecordingJP」チャンネルで、制作環境に関してインタビューに答えています。

これを見ると、どうしてもハードウエアやソフトウエアに新たな投資は必要なようです。「Spacial Audioに対応したら大幅に売上が向上する」というなら、多少の投資は惜しまないところですが、残念ながらまだそうではないので、慌てて投資をする必要はないのではないでしょうか。Apple Musicで今公開されている音源はいずれも、もともとステレオとして納品されているものを擬似的にDolby Atmos Musicフォーマットで聞けるようにしているものですからね。

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