アーティストの主要収入源、ライブ・コンサートのチケット代の事情は日本とそれ以外の国で大きく違う
2024年11月28日に株式会社国際社会経済研究所が「ファンクラブ加入状況と公演チケット購入に関する調査結果」というレポートを発行しました。
https://www.i-ise.com/jp/information/press/2024/20241128.pdf
この中で、公演チケットの料金と転売に関しての設問があり、日本のマーケットがアメリカやヨーロッパと大きく違っていることが印象深かったです。
アメリカの事情
私たちは毎年NAMM(National Association of Music Merchants:全米音楽商品協会)が開催するNAMMショーに参加していますが、2024年のセッションには、多くのアーティスト・マネージャーが集まってマネタイズの方法について語るセッションがありました。
この際に、アーティストの収入源にはどんなものがあり、それぞれ何%くらいか、という問いが司会者から発せられました。数字は様々でしたが、まとめると
- 音源収入:デジタル配信やストリーミング・サービスからの収益が中心。CDやレコードの売上も含んで、比率:約20-30%
- ライブ・コンサート収入:約40-50%
- グッズ販売収入:比率:約20-30%
といったところでした。
アーティストにとっては、もはや音源からの収入よりもライブ・コンサート収入の方が比率が高く、重要な収入源なのです。このチケットがどのような価格で売られてアーティストに入ってくるかということには大きな興味があるのですね。
アメリカではチケットの転売はごく普通のことです。「Ticketmaster」や「AXS」、「See Tickets」といったチケット一次販売サイトで売られ、それが「StubHub」、「SeatGeek」や「Vivid Seats」といった二次販売で転売されるのです。ビッグ・アーティストの転売価格の高騰はすさまじいものです。たとえば2023年3月17日から2024年12月8日まで行われたテイラー・スウィフトの「Era」ツアーのチケットの一次価格は$49から$499です。ドル=150円で計算すると7,350円から74,850円です。これが2023年4月28日と29日にジョージア州アトランタで開かれた公演では$35,000、日本円で約525万円で二次販売サイトで買われたことがわかっています。ものすごい金額ですね。
アーティスト側の不満は、一次販売価格に見合った分しか収入にならないことです。アメリカの公演では定額のギャランティ制ではなくチケット売上のパーセンテージで決められることが多く、この売上高は一次販売価格で決まるからです。
欲しいチケットは10万円出しても20万円出しても欲しいファンがいるのに、一次価格と二次価格の差は二次販売した誰かのふところに入ってしまってアーティストには入ってこないことが問題なのです。
これは、二次三次の販売価格も追跡できるブロック・チェーン技術かダイナミック・プライシングを使えば解決することです。ただし、こうした技術にはコストが相当かかるので、テイラー・スウィフトならいざ知らず、普通のアーティストの公演ではとてもこれを負担できないのです。
日本の事情
「ファンクラブ加入状況と公演チケット購入に関する調査結果」で明らかになるのは、チケット販売の公平性です。
回答者がチケット購入時の不満・不安に潜在している上位概念としては
- チケット購入の困難さと不公平感
- 価格に対する納得感
- 日程の不安感・購入後の柔軟性
- 購入プロセスで感じるストレス
を上げています。
「チケット購入の困難さと不公平感」に関しては「本当に行き たいファンが買いにくい」「人気の公演・ イベントのチケッ トが買えない/買いにくい」「ファンクラブに入っていても 買えないことがある」「座席の選択ができない、または不明確」といった回答、
「価格に対する納得感」に関しては「チケットの価格が高すぎる」「購入時に諸手数料などの追加料金がかかる」。
「日程の不安感・購入後の柔軟性」に関しては「日程が先過ぎて予定が立てにくい」「確実に行ける日程か分からない」。
「購入プロセスで感じるストレス」に関しては「購入手続きが複雑でわかり にく い」「支払い方法の選択肢が少ない」など。
要は、日本のファンは公平性がとても重要なようなのです。
音楽ビジネスは客商売ですからお客が嫌がることをやってはいけません。アメリカでは普通の、隣の席の人が自分よりも安い値段でチケットを買っていたり、金の力でいい席に座っていることが耐えられないのが日本のファンなので、これに合わせていくしかありません。
でも、こういうのに対応していると、いつまでもチケット代は上がりませんから、アーティストの収益も向上しません。
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会の2024年1月~2024年6月の調査によると「2024年上半期におけるチケットの総売上を総動員数で割った平均単価は、前年同期比119.1%の¥10,408となっているが、一部大規模公演のチケット価格上昇、円安の影響を受ける海外アーティストの招聘公演、一部の高額チケット等の影響が大きく、それ以外の公演の価格上昇幅は限定的とみられる」と、チケット代の伸び悩みを記しています。
https://www.acpc.or.jp/marketing/kiso_detail.php?year=2024&hanki=1
世界マーケットを目指すアーティストは、足元の日本のマーケットのチケット事情にももっと敏感になり、国外の活動の原資をこのマーケットで着実に稼いでいかなければなりません。
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