2024年の音楽ビジネスを考える 〜「IFPI Global Music Report 2024」と「MIDIa Report」から

IFPI Global Music Report 2024

2024年も3月になって2023年の音楽業界の業況のまとめがいくつか発表されました。まず3月18日にエンタテインメント業界のリサーチ会社ミディア・リサーチがレポートを出し、3月19日にはSpotifyがアーティストへの支払いやロイヤリティに関する2023年の調査結果をまとめた最新版のレポート「Loud & Clear」を発表しました。 そして3月21日にIFPIが「Global Music Report 2024」を発表しました。

この記事では、引用されることの多いIFPIのレポートを中心に、2023年の世界の音楽業界を振り返り、2024年以後の音楽業界を考えていきましょう。

まず、全体像から。

音楽業界の2023年を象徴する4つの数字

  • 音楽業界の収入は前年比+10.2%、
  • サブスクリプションは前年比+11.2%
  • 全世界の収入に占めるストリーミングの比率は67.3%
  • フィジカル(CD、レコードなど)の伸びは+13.4%
  • 演奏権収入の伸びは+9.5%

とまとめています。

ここでいう「演奏権(Performing Rights)とは著作権ではなく、原盤に関する演奏権使用料なのです。お店などのパブリックな場所で音楽をプレイするときに原盤に発生する使用料のことなんですが、日本では著作権にはこれを認めていますが、原盤権には認められていないので、日本には関係ない数字です。

IFPIグローバル・チャート2023

2023年、世界で最も売れたアーティストはTaylor Swift。10位以内にK-Popアーティストが4つ入っているのが今年の特徴です。SEVENTEEN、STRAY KIDS、TOMORROW & TOGETHER、NEWJEANSです。

IFPIグローバル・シングル&アルバム・チャート

K-popアーティストの2023年の特徴は、アルバム・セールスで上位に入っていることです。年間アルバム・チャートではSEVENTEENは1位と8位に、STRAY KIDSは2位と9位に作品を送り込んでいます。

音楽業界総売上1999年-2023年

このグラフは多くの人が見慣れているのではないでしょうか。音楽業界の売上のピークだった1999年から昨年2023年までの音楽業界の売上のグラフです。2023年も前年比10.8%伸びて286億ドル(1ドル=150円で計算して4兆2900億円)になりました。かつてのピークを大きく上回る売上です。COVID-19のパンデミックの期間も含めて、毎年10%も伸びている業界は、他にはそうはありません。音楽業界は、成長産業です。

音楽業界セグメントごとの売上構成比

音楽業界の売上を支えているのはいまやストリーミングです。売上の67.3%がストリーミングからもたらされています。このうち、有料のサブスクリプションは48.9%、無料の広告ありのストリーミングは18.5%です。

意外と伸びが大きいのはCDなどの「フィジカル」で、全体の17.8%。前年比13.4%の伸びを示しています。

世界の各地域ごとの音楽業界の売上の伸び

地域ごとに見ると、さすがにアメリカやヨーロッパでは売上の伸びは一桁台にとどまっていますが、

  • サハラ以南のアフリカ +24/7%
  • ラテン・アメリカ +19.4%
  • アジア +14.9%
  • 中近東とサハラ以北のアフリカ +14.4%

と、軒並み二桁の伸びを示しています。

ラテン・アメリカや韓国のアーティストがグローバル・チャートに登場するのはもはや当たり前になりました。これからはアフリカやインド、中国のアーティストもグローバル・チャートに登場してくるものと思われます。

「伸びているマーケット」「音楽で伸びている言語」についてはSpotifyのレポートに詳しいので、別稿を用意するようにします。

IFPIの直前にレポートを発表したMIDiAは、IFPIの286億ドル(1ドル=150円で計算して4兆2900億円)に対し、351億ドル(同レートで5兆2650億円)と高い数字を出しています。

MEDiA 2023 Record Music Market Infographic

この金額の差に対してBillboardは「IFPIはいささか古くさい」と述べています。

Why Are IFPI & MIDiA’s 2023 Revenue Figures So Far Apart? The Answer Lies in ‘Expanded Rights’ 【Billboard】

MIDiAの調査では、まず非メジャーレーベルやCD BabyやYuneCoreなどで自ら曲をストリーミング・サービスにアップロードするアーティスト・ダイレクトが調査対象になっているのです。IFPIは日本レコード協会も加盟する国際的なレコード協会の連合体です。各国のレコード協会から上がってくる数値をもとにレポートを出しています。ですから、レコ−ド協会に加盟していないアーティスト・ダイレクトなどの売上を含めることはできません。MIDiAのレポートでは非メジャー・レーベルとアーティスト・ダイレクトの売上の総合計は、最大のメジャー・レーベルであるユニバーサル・ミュージック単体の売上高を超えると言っています。

またIFPIのレポートに含まれるのはCDなどのセールス、ストリーミング、映像などとのシンクロナイゼーション、演奏権の4要素ですが、現代のレコード・レーベルはレコード契約に際してグッズやツアーの売上、アーティストんの広告出演料からも一部売上を上げる内容の契約「360度契約」をすることが多く、MIDiAのレポートはこうした売上も含んでいると良いのです。

実際、トップ・アーティストでもツアーの売上がストリーミングの売上を遥かにしのぐケースがほとんどです。

トップ・アーティストの売り上げ構成比

10年前には真っ暗だった音楽業界は、ストリーミングをテコに活況を呈しています。IFPIのレポートでは2023年、音楽産業の収益は、9年連続で成長しています。

私たちは、これだけ活気のある業界で生きていられて本当に幸福です。

2024年は、2023年も顕著な伸びを示したアフリカやラテン・アメリカ、アジアでの伸びが更に大きくなるでしょう。日本やヨーロッパ、アメリカでは、ファン一人あたりの売上を向上させるために、コアなファンである「スーパー・ファン」対策が重要になってくるでしょう。アーティストとのエンゲージメントが強固なファンをいかに増やすか、スーパー・ファンが思わず支出したくなるような商品をいかにして開発できるか、というのがキーになってくるでしょう。

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