J-Pop的な構成はグローバル・マーケットでは通用しないか?

BTSの事務所Big Hit Entertainment Japan(社名変更して現在の社名はHYBE LABELS JAPAN)が2020年秋に日本でプロデューサーを募集しました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000045862.html

Big Hitの募集ウェブページ

http://nnc.bighitaudition.com/

(募集締め切り後閲覧できません)

この応募要項にある「デモガイド」の記載内容が、興味深いものでした。

Big Hitの「デモガイド」

[デモガイド]
・ご本人(チーム)の才能とセンスを最大限に表した、グローバルな音楽市場で競争力のある音楽(グローバルメジャー音楽チャートへのランクインが可能なレベル)デモをご提出ください。
・R&B、ヒップホップ、EDM、ポップ・ロックなどアメリカンポップススタイルのリズムが際立つ、トレンドを先導する洗練されたサウンドの音楽デモを推奨いたします。
・メロディが鮮明でダイナミックな流れの、起承転結がはっきりとした定型化された曲の構造(A:Verse-B:Pre-Chorus-C:Chorus)の音楽デモはご遠慮ください。
・ジャンルが不明確なハイブリッドされたスタイルのデモはご遠慮ください。

 

この意図は、Big Hit Entertainment(改めHYBE)が考える「グローバルな音楽市場で競争力のある音楽」に含まれないのは「メロディが鮮明でダイナミックな流れの、起承転結がはっきりとした定型化された曲の構造(A:Verse-B:Pre-Chorus-C:Chorus)の音楽」や「ジャンルが不明確なハイブリッドされたスタイル」の音楽である、ということでしょう。
日本でプロデューサーを募集するとこのようなデモばかりが寄せられることをあらかじめ想定して、こういうデモは受け取れない、と言っているのだと思います。

日本のヒット曲の王道は、ここに書いてある
Aメロ 8小節
Bメロ 8小節
Cメロ 8小節
という構成です。
日本に住んで普通に日本の音楽ばかりを聞いていると、音楽の構成がこのような様式であることがなんだか普通になり、曲を作るとついついこういう構成になったしまうのかもしれませんね。でもBig Hit Entertainment(改めHYBE)はこれではグローバルではダメだ、と思っているのでしょう。僕も、実はこれには賛成です。いわゆるJ-Pop様式は、20世紀の歌謡曲やニュー・ミュージックの時代からのメロディの落とし込みがないとダメらしいのですが、アメリカやヨーロッパのチャート上位にそういう曲はほとんどみつかりません。

2021年、ヨーロッパ中で大ヒットしている曲に、イタリアのバンドMåneskinの'I WannaBe Your Slave'があります。
2021年の「ユーロ・ビジョン・ソング・コンテスト」でこのバンドが優勝し、イギリスを含むヨーロッパで大ヒットしているのです。

この曲などは、Aメロしかありません。
C#m A G#
C#m A G#
C#m A G#
E D#
この単純なコード進行だけで1曲ずっと行きます。勢いです。ギター・ソロもあるのですが、展開は変わりません。やっぱり、勢いです(笑)。

Netflixの音楽番組'Song Exploder -音楽を紡ぐ者-'シリーズ2にはDua Lipaの楽曲'Love Again'の制作風景が出てきますが、この中で「A-B-C-ブリッジ」という構成で出来上がってしまった曲の構成を一度ぶっ壊してみるところが出てきます。

Netflixのウェブページ「SONG EXPLODER」
https://www.netflix.com/jp/title/80992997

グローバル・マーケットを目指すなら、制作している楽曲の「様式美」も、一度見直してみたほうが良いのかもしれません。

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